1964年に発売された911はそれまでの356に比べほとんどの面で長足の進歩を遂げていましたが、一方で生産コストは大幅に上昇し、初期の911は356の最終型SCが16,450マルクであったのと比べて価格が約40%増しの22,900マルクになってしまいました。そのため356をそのまま生産中止にした場合、356が持っていた市場の一部を失うと考えたポルシェが356の市場を直接受け継ぐ車種として開発したのが911の廉価版である912です。

912の成り立ちを簡単にいえば、911のボディに356の最終型SC用水平対向4気筒OHV、内径φ82.5mm×行程74mmで1,582ccの空冷エンジンを積んだものです。ただし圧縮比を9.3とし、ソレックス製φ40mmキャブレター装備により90馬力/5,800rpm、12.4kgm/3,500rpm[1]としエンジン形式も616/36型となりました。トランスミッションは当初911が5速であったのに対し912では4速が標準だったが5速もオプションで選択できました。

外観は当時の911とほぼ同じですが、内装はステアリングホイールがプラスチック製になり、ダッシュボードはボディ色(鉄板むき出し)で、911では5連のメーターも356と同じ3連であるなど簡略化され、これらの簡略化により912の販売価格は16,000マルクです。 2+2で後部の二座席は完全なエマージェンシーシートであり、前部の二人が適切なシート位置を取った場合、後部にはとても大人が座れないほどの狭さではあります。

動力性能は911に及ばなかったがエンジンが軽量であったため重量配分は911よりも良好であり、そのために操縦性に関してはむしろ優れていたといわれています。

912は、最初期の911たるOシリーズの時代に登場し、Aシリーズを経て、ホイールベースの延長されたBシリーズの時代まで存続しました。マイナーチェンジ等は基本的に同時期の911に準じており、1967年からはオープンボディのタルガも設定されました。途中でメーターは5連化され、トランスミッションも5速が標準となりました。

最終的に1969年7月まで生産され、914に後を託して生産中止となり、その間の生産台数は約3万台でした。日本への正規輸入はちょうど100台です。